« オープン・ソース・ライセンスの整理はありがたい | メイン | サンのデータベース戦略の選択肢 »

2005年02月20日

エンジニアと法律専門家の間のギャップ

また、ジャスト-松下の話になってしまいますが、前にも述べたように侵害訴訟において問題となっているポイントのひとつに「アイコン」という言葉の定義がありました。
キー入力で起動するバルーンヘルプ機能は松下特許の出願前に存在したことがMacのマニュアル等の証拠により証明されていましたから、松下の特許は進歩性がないとジャスト側が主張したのに対し、裁判官はキー入力とアイコンクリックは違う(ゆえに、松下の特許の進歩性は否定されない)と認定したわけです。
まともなエンジニアであれば、ユーザーインターフェースの設計でキー入力とアイコンクリックは相互置換できるものとして作るのが当たり前で、これは、1988年当時のMacの世界でも当たり前だったと思うでしょう。
しかし、残念ながらこの理屈は裁判官を納得させるに至らなかったわけです。

ここで、思い出したのが、ちょっと前に受けたビジネス・モデル特許のセミナーで講師の先生が言ったお話。
ビジネス・モデル特許の明細書を作る場合の注意点として「サーバ」という用語は安易に使わない方がよいらしいです。
たとえば、請求項に「課金サーバと顧客情報サーバから成る...」とうかつに書くと、課金サーバと顧客情報サーバを同じマシンで稼動している実施形態を差し止めできない可能性があるということらしいです。
こういうときは、「課金情報アクセス手段と顧客情報アクセス手段から成る...」と書いた方が安全らしいです。
技術者的に言うと、「1台にまとめようがサーバ機能としては同じなのだから...」と思うのですが(サーバという言葉はサーバの筐体を指すこともありますが、サーバ機能を指すこともありますから)、そういう技術者にとっての常識は裁判官に通じないことがあるということでしょう。

現状としてこうなってるのはしょうがないとしても、将来的にこのギャップを何とか埋めていかないと、技術常識とかけ離れた特許訴訟の判決がこれからも出てくるのは確かでしょう。

追加情報(05-02-22)
請求項を工夫するのではなく、発明の説明の中で、「ここで、サーバとはソフトウェアの機能を指し、ハードウェア筐体とは独立した概念である」という風に定義を明確化するという技もあるようです。

投稿者 kurikiyo : 2005年02月20日 22:47

コメント

栗原さんの主張はその通りと思います。しかし,問題はもっと深刻なのです。それは,裁判官だけでなく,その訴訟に参加している原告,被告,更に特許庁から出向している調査官の全てが,「技術」が何か,「技術」と同義と考える「発明」が何か,その定義が解っていないということです。技術の定義が明確でないため,「アイコン」を技術的用語として解さずに,その言葉そのものとしてしか解釈することが出来なかったのです。当該特許の明細書では,スクロールバーも用語「アイコン」の範囲内としていることは明らかです。(好意的に見れば,明細書に記載不備がある場合に,権利者に不利に解釈する事があり,それに該当するのか) 他の例として,「着信表示方式」事件(東京地裁 平成16(ワ)8967号)があります。詳細は省略しますが,特許発明の用語「ランク」は,原告製品の「グループ」と同じです。確かに,特許請求の範囲には「ランク」と記載されていますが,発明の詳細な説明の欄では「ランク」付けするのは人間であって,装置ではありません。即ち,用語「ランク」には技術的裏付けがありません。技術的裏付けの無い用語は技術用語でありません(「ランク」の意味を広辞苑を引用して決定していますが,広辞苑は技術用語辞典ではありません)。「ソフトウェア」にしろ「ビジネスモデル」にしろ,10年程前までは発明でないとされたが,特許法を改正することなく発明であるとして特許されるようになったのです。即ち,「発明」が何か定義出来ないための恣意的運用です。用語「技術」,「発明」の意味が解らなければ「発明の容易性」なんか判断できる筈がありません。特許庁の審査基準を始め,特許専門書の何れを読んでも,怪しげな説明だけで,誰にも解る説明は見られません。そのような状態で,特許が正しく設定できると思いますか。そのような出鱈目な状態で特許された案件を真面目に検討してもあまり生産的とは思いません。要は先ず,「技術」,「発明」を明確にすることが先決と思います。私は,その具体案を持ち,20年程,特許庁審査官,審判官,弁理士として実践してきました。そして,私の理論により,特許制度の大半の問題は解決できます。もし宜しければ説明いたしますが,如何でしょうか。

投稿者 丸山光信 : 2005年04月08日 15:09

貴重なご意見どうもありがとうございます。こういう話はソフトウェア系だけに限った話なのでしょうか?分野は何であれ、変化のスピードが速い技術分野では共通しておきそうな現象と思います。
理論については興味ありますが、長くなりそうでしたらメールにて御願いします。

投稿者 栗原 潔 : 2005年04月10日 23:29

栗原様
 旅行等で不在のため,返事が遅れました。
 ソフトウェアに限りません。発明が定義出来ない人は,現行の特許法は1959年(昭和34年)法が基本であり,現在のように技術の変化が激しい時代には,特許法2条の「発明の定義」の規定が必ずしも適切であるとは言えないと説明します。中には,その規定中の「自然法則の利用性」の要件を削除すべきであると主張します。しかし,そのように言う人が又,技術(事項)であれば,技術の範囲内であれば,発明であると説明します。だが,その技術については定義せず,定義しないことに疑問を持ってもいません。ソフトウェアだけでなく,ビジネスモデルや遺伝子(ゲノム)構造等,新たなものが発生する度に,発明であるか否かが問題になり,結局は技術らしいということで発明として特許しているのです。
 私の理論は,日本弁理士会誌「パテント」の2000年10月号「明細書記載の自然必然性」,及び2004年5月号「実効ある特許権のために」において発表しています。前者は,私のホームページhttp://members2.jcom.home.ne.jp/mitsu-maru/
に,後者は日本弁理士会のホームページに掲載されています。もしこのサイトでの説明が希望でしたら,短くご説明できると思います。ご返事下さい。

投稿者 丸山光信 : 2005年05月02日 19:25