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2005年02月16日

松下に関する噂と特許権の強力さ

#SunのOpenSolarisに関するエントリーの続きを書く予定でしたが、まだ考えがまとまらないので、今回はまたジャスト-松下に関するお話です。

たまに覗いている知財関係の掲示板でおもしろい話を見ました。なぜ、この訴訟がが和解ではなく、判決まで行ってしまったのかという点について
>松下は1.過去負けた裁判と同じ裁判長だったので、今回もてっきり負けだと思っていた、2.今回の勝利(及びその反響の大きさ)に驚いて、高裁では当然和解の方向で行く、

噂の真偽についてはわかりませんが、確かに松下も勝訴してもイメージ低下というそれなりのダメージを負うことは十分予測できたと思えますのでうなづけるお話ではあります。
そもそも、特許権は非常に強力な権利であり、抑止力として使って自分に有利な和解に持ち込むことこそあれ、実際に行使されることはそれほど多くないです。

ちょっと前に、マイクロソフトの対オープンソース競合分析担当者であるBill Hilf(ビル・ヒフ)氏と話す機会がありましたが、その時にMicrosoftの知財戦略について聞いてみたところ、「Microsoftが知財戦略を強化しているのは確かだが、それはライセンス収益を得る機会を増やしたり、有利なクロスライセンスを結ぶ(Sunとの和解がまさにそのケース)ことであって、他社を訴訟しまくるということではない。訴訟をしても結局両方とも損する結果になるから。」という真っ当な答えが返ってきました。
「対オープンソースの時にはどうするんですか、クロスライセンスのしようがないでしょう?」と質問したら、明確な答は返ってきませんでしたが。

ついでに、ここで、特許権の強力さについて考えてみたいと思います。
一部の掲示板等で「一太郎・花子の製造販売中止と廃棄というのはひどすぎないか、なぜ、損害賠償にしないのか?」という疑問を呈している人が少なからずいました。
実は特許法では権利者に対して民法上の損害賠償請求権とは別に差止請求権という特許法独自の権利が認められています。
差止請求権の強力なところは、特許の侵害行為が認定されれば、自動的に差止請求が認められ、裁判所は製品の製造中止や破棄等を命じることができるという点です。
「確かに特許は侵害しているけど、差止はあんまりなので、損害賠償金の支払いのみにする」という判決が出ることは基本的にはないのです。
また、「そんな特許があるとは知らなかった」、「この製品はものまねではなく自社で独自開発したものだ」、「特許権者には損害が生じていないから訴える意味がない」という主張はすべて基本的に通りません。特許権は絶対的な権利なのです。

また、特許法では、差止請求に加えて損害賠償請求を行う場合にも、特許権者側が有利な規定があります。
一般的に損害賠償する時には、原告側が被告に故意か過失があったことを証明しなければいけません、また、被告の行為によって原告に損害が生じたこととその金額を証明しなければいけません。
しかし、特許法では、被告の過失の推定規定というものがあって、原告側が「相手に過失があることを証明する」のではなく、被告側が「自分には過失がなかった」ということを証明しなかればなりません(しかも、実際には、被告が過失がなかったことを証明するのはほとんど不可能に近いらしいです)。
また、損害額の推定規定というのもあって、被告が得ている利益をすべて損害賠償請求額とすることも可能です(そんなに損害は生じてないよと証明するのは被告の責任です)。

要するに、特許権というのは持っている側が圧倒的に有利な権利なわけです。
特許権による攻撃に対する最大の防御は特許権による防御、つまり、クロスライセンスです。

そういう意味でいうと特許権を持たない(持とうとしない)オープンソースコミュニティが特許権による攻撃に対して本質的に脆弱であるということがわかると思います。
マイクロソフトによる特許権に基づくLinuxへの攻撃、これが起きるか起きないかの予測をここで述べることは避けたいですが、もし起きたとしたならばそれはLinuxコミュニティにとって壊滅的な打撃になることだけは確かだと思います。

投稿者 kurikiyo : 2005年02月16日 23:45

コメント

オープンソースに対して特許訴訟を仕掛ける事はそもそも可能なんでしょうか?素朴な疑問ですが。それで利益をあげているわけでもない
わけですし。それを利用している法人が訴追されるのでしょうか。
MSのサイトがDos攻撃されて不能に陥った時、彼等はLinuxを一時
使用したと思いますが。
wwwにしてもT.B.リーの献身で今があると承知してます。片方で
恩恵を受け、ガンジーの非暴力にも通じるオープンソース陣営を
攻撃することは倫理的にもまた論理的にも不可能ではないでしょうか。
B.ゲイツがヒトラーであるなら話は別ですが。

投稿者 juniwaki@Joha : 2005年02月17日 02:45

to : juniwaki@Johaさん

# 倫理的な問題はまた別においておきます。

 少なくとも「日本においては論理的に」可能でしょう。
 『「業として」の定義が「個人的、あるいは家庭的なものではないすべての行為」である』ようですから、
オープンソースソフトウェアを配布する行為は十分「業」に該当するはずです。

# さらに、これに対する抗議の不買をしようにも、日本メーカーのパソコンに
# プレインストールされちゃってるので・・・。

> B.ゲイツがヒトラーであるなら話は別ですが。

 ゲイツは「特許反対者は共産主義だ」とか言ってますので、ソ連に喧嘩を売る(w)可能性は
否定できないでしょう。
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000050154,20080115-3,00.htm
http://japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000050150,20080735,00.htm

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あー、やだやだ・・・。こんな潰し合いを
続けていくならマジで勤労意欲を失っていく・・・。

投稿者 hogehoge : 2005年02月17日 16:00

米国では、SCOがダイムラークライスラー等のLinuxユーザー企業を訴えてますよね(これは、特許ではなく著作権に基づくものですが)。
ただ、マイクロソフトがLinuxユーザー企業を訴える可能性はゼロと言ってよいでしょう。
その一方で、SCOのように先行きがないが特許だけは持っている企業や、特許ゴロ企業が何するかわからないというリスクはあるでしょう。

投稿者 栗原 潔 : 2005年02月17日 16:52

和解になった場合は松下の特許は有効だと言うことですよね。それは釈然としません。
この種の特許が有効だということになれば、ソフト開発に大きな妨げになるのではないでしょうか。
大体この特許は、装置(ハード)特許か、ソフト特許か、私には分かりません。一太郎をインストールしたパソコンが結果的に侵害している、という判決から見ると装置(ハード)特許のようにも思えるのですが。いずれにしても中途半端な特許のように思えます。
この伝でいけば、専用ディバイスを必要としていた特許装置の機能を、CPU等の能力アップによりソフトで実現できたとしても、これも侵害に当たることになってしまうのではないでしょうか。

投稿者 PCojin : 2005年02月17日 23:59

この時期ですと運用上ソフトウェア特許は認められてないですから、特許庁は装置特許として特許権を付与したと考えられます。
ところが、その後、ソフトウェアそのものに対する特許が認められたことにより、結果的に装置特許の効力がソフトウェアにも及ぶことになってしまったわけで、ちょっと理不尽な気がします。
以前のエントリーで、ジャストが「この特許はワープロ専用機に対するものでソフトウェアに対するものではない」と主張したのはおかしいと書きましたが、この観点から言うとあながち的外れではないかもしれません。

投稿者 栗原 潔 : 2005年02月18日 03:16

>>PCojinさん

裁判とは別に特許無効審判というものを特許庁に対して請求できますよ。これは誰でも(個人でも)することができます。
もちろん、http://www.kurikiyo.com/mt/archives/2005/02/post_28.html で書いたように確固たる文書による証拠が必要です。

投稿者 栗原 潔 : 2005年02月18日 05:09

あらら・・・・こんな所で、私の書き込みが引用されています。
某掲示板も意外と有名なんですね(笑)。

まぁ、うわさはうわさ以外の何者でもないんですが、出元は知財協の常務理事会と聞いています。その場にいた人が松下内で本件を担当している人かどうか知りませんし、担当でなければおもしろおかしく話しているだけかもしれませんが(結構、企業内でこういった事があります。)、企業人としてはあり得る話、だとは思い、そのうわさを聞いておりました。

投稿者 無名人 : 2005年02月18日 08:28

>>無名人さん
生々しいコメントどうもありがとうございます。^_^;
ひとつ素朴な疑問なんですが、こういう時って、裁判所側が「こういう判決にするから和解した方がいいんじゃない?」とは聞いてくれないのでしょうか?いきなり判決が出てしまうのでしょうか?それとも、こういう和解勧告があるのは高裁以上のみでしょうか?教えて君ですみません。

投稿者 栗原 潔 : 2005年02月19日 00:05

私の数少ない経験では、地裁では和解の勧告は無かったですね。
高裁では・・・・・勧告が、それも非常に強い勧告がされました^^;
地裁では全面勝訴だったのでなんで和解なんかをしなけれりゃいけないの、ってな感じで高裁の小部屋で裁判官殿相手に小一時間揉めました^^;
裁判官殿いわく「判決だと当事者同士で遺恨が残るから和解(互譲の精神ってやつですね)でなんとかならないか」の一点張りでした。
最終的には相手側が和解に乗ってこなかったので、高裁でも当方が全面勝訴となりました。

和解したかどうか(和解の提案があったかどうか)は当事者同士にしかわからない事ですから、他の事案でどうなるのかはよくわかりません。仄聞した所では、裁判官の中でも和解を強く勧める方もいればそうでない方もいるとの事ですが・・・・

投稿者 無名人 : 2005年02月19日 00:40

栗原さん

ジャストシステムによる「専用機特許だ」とのコメントですが、個人的にはいまさらそれはないだろう、という思いです。
特許がソフトウエアに関するものかどうかは、判決を見る限り訴訟での争点とはなっていないようですし、ジャストシステムにしても「装置」として表現されているものの、発明の本質はソフトウェアにある特許を出願していますから。

HP幹部によるソフトウェア特許に関する見解が記事になっていました。
http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000047623,20080733,00.htm

それまでの経緯から「反ソフトウエア特許」の立場を取るのもわかるのですが、オープンソースについても、第三者からの権利行使の可能性を考えないわけにはいきません。他者からの権利行使への対抗措置として特許出願の必要性についての栗原さんのご見解には、同意します。

各々の特許をプールして、原則無償許諾し、第三者からオープンソースコミュニティに対する権利行使があった場合にはプールされた特許を用いて対抗する、といったある種のコンソーシアムがあってもいいのかも知れません。「自己の利益」のための特許取得でなければ、まだ受け入れられやすいと思うのですが。
特許部員的な考えでしょうか?

投稿者 おさむ : 2005年02月19日 10:21

特許権プールのコンソーシアムは現実的な考え方だと思います。もし、IBMとHPが協力すれば、かなり実現性は高いのではないでしょうか?
ただ、これでもクロスライセンスなんて知ったこっちゃないという特許ゴロ企業からの攻撃には有効ではないですが。

投稿者 栗原 潔 : 2005年02月21日 12:21

この判決は仮執行宣言がありませんよね。
弁護士さんの話では、仮執行宣言がつかないのは、裏の意味で、高裁で和解しろとのことだそうです。
でも、そんなことは一般人にはわかるべくもないわけで、こんな混乱を引き起こしているのでしょう。
また、特許法の規定はわかりますが、単に製品を差止めとか判示せずに、該当部分を削除せよとか、裁判所も気の効いた言い回しをすればよかったのに、とも思いました(実際、ジャストは修正プログラムを配布することで対処しているわけですから)。

投稿者 たろ : 2005年04月19日 22:37

>>たろさん
>弁護士さんの話では、仮執行宣言がつかないのは、裏の意味で、高裁で和解しろとのことだそうです。
確かにおっしゃる通りかも。そもそもこの事件、なんで当事者間で和解せず判決まで言ってしまったのかというのは大きな疑問です。
>該当部分を削除せよとか、裁判所も気の効いた言い回しをすればよかった
これもおっしゃる通りで、設計変更が比較的容易であるというソフトウェアのUIの特性を裁判所がまだ理解していないという状況が現れているのではないですかね?

投稿者 栗原 潔 : 2005年04月20日 00:54